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(注)斎藤友紀雄
斎藤友紀雄は精神科医でも医師でもありません。東京神学大学とアメリカの神学校で神学と臨床心理学を学んだ、日本キリスト教団の牧師です。
























































































































































 

中枢神経抑制剤

 中枢神経抑制剤と分類される薬があります。文字通り脳や脊髄にある中枢神経の働きえを抑える効果を持つ薬です。英語ではCNS depressant (CNS=Central Nervous System)と呼んでいます。短く、ダウナー(downer)と呼ぶこともあります。一番身近な中枢神経抑制剤はアルコールです。お酒を飲み過ぎると現れる典型的な症状、千鳥足、舌のもつれた話し方等は皆アルコールの影響で中枢神経が抑制されてしまった結果です。アルコール中毒者に自殺が多いのは、アルコールの中枢神経抑制作用の結果、気分や感情も落ち込んでしまって、抑うつ症状(depression)に至るからです。またアルコール中毒症の治療のために医師から投与された精神薬の影響も考えられます。

 厚生労働省が平成24年2月に発表した「病院・診療所における向精神薬取扱いの手引き」の5頁以降にある「向精神薬一覧」を見ると、ベンゾジアゼピン系薬剤は軒並み薬理作用は「中枢抑制」と分類されています。「中枢神経抑制剤」であるということです。ここでいう「向精神薬」は「麻薬及び向精神薬取締法」で規定した狭義の「向精神薬」ですが、広義では抗精神病薬や抗うつ薬等の精神治療薬は皆、「向精神薬」に入ります。

 統合失調症の薬である抗精神病薬(antipsychotics)も中枢神経抑制剤です。 ドーパミン等の神経伝達物質の働きを弱めることによって、中枢神経の興奮を抑え、鎮静化させる効果があります。真実7の検証の節で述べたことですが、イギリスのウエールズ大学の精神科教授、デイビッド・ヒーリーが抗精神病薬第一号のクロルプロマジンが発明される前のウェールズの精神科病院の統合失調症患者の自殺率は通常の健康人の場合と同じでしたが、クロルプロマジン等の抗精神病薬が使われる時代になると、自殺率はその20倍に激増したということでした。抗精神病薬という中枢神経抑制剤を服用することで、患者の抑うつ(depression)が強まったのです。それが患者の自殺につながっているのです。

 ベンゾジアゼピンが開発される前に睡眠薬や抗不安薬としてよく使われていたバルビツール酸系薬剤(barbiturate)も中枢神経抑制剤です。ベンゾジアゼピンと同じように、バルビツールにもいくつもの種類があります。よく知られたものでは、バルビタール(barbital)、アモバルビタール(amobarbital)
、フェノバルビタール(phenobarbital)などがあります。麻酔薬や抗てんかん薬として使われることもあるようです。バルビツール酸系薬剤は依存や耐性がつきやすく、かつ過量にとった場合には、死に至ることが問題となりました。ベンゾジアゼピンのまだなかった時代に、日本の作家の芥川龍之介やアメリカの女優のマリリン・モンローが自殺する時に使った薬はバルビツール酸系睡眠薬でした。バルビツールは致死性が高いので危険であると思われていますが、それよりももっと根本的に問題なのは、強力な中枢神経抑制剤であるが故に服用者に抑うつや希死念慮が生まれるということです。依存と耐性によって服用量が徐々に増えて行きますが、それに伴なって、死にたいと思う気持ちが強まって行くのです。

 それまで使われていたバルビツールに代わるものとして登場したのがベンゾジアゼピンです。ホフマン・ラロシュ(Hoffmann-La Roche)が1950年末から1960年初期にかけて、クロルジアゼポキシド(chlordiazepoxide)やジアゼパム(diazepam)といったベンゾジアゼピン系薬剤を開発・製造・販売し、その後他社もベンゾジアゼピン系薬剤を手掛けるようになりました。バルビツール程に依存性も致死性も強くはなく、安全な薬剤であるというロシュを初めとする製薬会社のプロモーション効果が働き、ベンゾジアゼピンはバルビツールに代わるものとして市場を席巻しました。ベンゾジアゼピンが初めて世に出てからもう50年以上経つのですが、未だに「最近の睡眠薬は昔のものと比べると安全です」と患者に言ったり、書物に書いている医師がいるのです。ベンゾになってバルビツールと比べると確かに致死性は弱まったと言えますが、中枢神経抑制作用はベンゾでも変わらないのです。抑うつをもたらすという作用は依然としてベンゾでも残るのです。

 そろそろベンゾジアゼピンもそれ程安全な薬ではないことが世間で判ってきました。このサイトを注意深く読めば、その理由を理解頂けるでしょう。

 中枢神経を抑制すれば、例えば心臓の動きとか肺の動きをコントロールしている自律神経の働きを抑制することになりますから、抑制が強ければ心臓が止まったり、肺の呼吸が停止するといった事態が起こり、死に至ります。バルビツールが危険な薬である理由です。

 しかし中枢神経抑制剤の怖さは、自律神経の働きに影響を与えて、身体を正常にコントロールできなくするということに留まりません。人間の精神の働きや感情の動きも中枢神経によって律せられています。中枢神経抑制剤を使えば身体の働きのみならず、精神や感情の働きにも影響が出てきます。そもそもそれを狙って精神治療薬が使われるわけですが、精神や感情への影響がすべてよいものであるとは限りません。往々にして好ましくない影響が出てしまうことが多いのです。

 中枢神経抑制剤は英語ではCNS depressantであると既に申し上げました。抗うつ薬のことを英語ではantidepressantと呼びます。抑うつもうつ病も英語ではdepressionです。中枢神経抑制剤を使えば、身体の働きを自律的に司る中枢神経を抑制するだけではなく、心の働きも抑制する(depressする)ことになります。つまり抑うつ感、抑うつ気分、抑うつ症状が高まることになるのです。ベンゾジアゼピン系薬剤も中枢神経抑制剤ですから、ベンゾジアゼピン服用者に抑うつ、症状が現れるのです。特に長期に渡って、大量に飲めば抑うつ症状が強く現れます。死にたいとか、この世から消え去りたいといった希死念慮がその結果出てきます。困ったことには、服用者自身が死にたくなったのは薬の影響でそうなったと気が付かないことが多いということです。本人が気が付かないくらいですから、薬を処方した医師も、真実1と真実2が適用され、薬のせいで患者が死にたいという気持ちを抱くようになったと気が付いていないのです。抑うつになったり、死にたくなったのは、元からあった抑うつや、うつ病のせいであると自分に都合の良い解釈をしてしまうのです。

 アメリカで発行された本でHandbook of Psychiatric Drug Therapy(精神科薬剤療法ハンドブック)という題名の本があります。4人の共同執筆者が書いた本で、4人の内の二人がハーバード大学医学部精神科の教授で、二人共ハーバード大学医学部の附属病院であるマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)で勤務している医師、残りの二人はそれぞれアーカンソー大学とバンダービルト大学の医学部精神科の教授です。皆一流大学の医学部教授であり、それなりの社会的信用もあるはずです。第6判まで出ていて、小型で軽い本なので、ポケットに忍ばせて持ち運ぶのに便利なこともあって、アメリカの精神科医が参照してよく使っている本と思われます。この本の第5章 不安障害の治療のための薬(Drugs for the Treatment of Anxiety Disorders)に以下の記述があります。

 「ベンゾジアゼピン誘発性抑うつ. すべてのベンゾジアゼピンが抑うつの出現または抑うつの悪化に結び付けられてきた。抑うつの原因になっているのか、抑うつを単に予防できなかっただけなのかは不明である。治療の途中で抑うつが発生した場合には、ベンゾジアゼピンに抗うつ薬を加えるか、あるいはベンゾジアゼピンの代わりに抗うつ薬を使うことができる。」

 "Benzodiazepine-Induced Depression.  All benzodiazepines have been associated with the emergence or worsening of depression; whether they were causative or only failed to prevent the depression is unknown. If the depression occurs during the course of treatment, the benzodiazepine can be combined with or replaced by an antidepressant."

 
「抑うつの原因になっているのか、抑うつを単に予防できなかっただけなのかは不明である」と書いてありますが、これも常套手段としてよく使われる精神科医の弁明です。薬によって何か精神症状における副作用が出た場合には、それを病気そのもの、精神疾患そのもののせいにしてしまうというやり方です。もともと抑うつ(うつ病)になるような人だったので、ベンゾジアゼピンを使ってもそれを防止できなかったのだという主張です。日本の場合は特に極端ですが、精神科医は日本でもアメリカでもヨーロッパでも同じです。自分たちの職業は処方箋薬を患者に投与できるという政府が与えてくれた特権の上に成り立っています。薬を処方できなくなったらお手上げです。彼らの職業の存亡がかかっています。ですから薬の悪口は言いません。薬の副作用で何か有害症状が現れても、それが特に精神症状における有害症状の場合には、それは薬に原因があるとは認めません。真実1真実2(あるいはその裏の間違った思い込み1と2)があるがゆえに、何をいっても世の中ではそれで通ってしまうのです。

 EU(欧州連合)のベンゾジアゼピンの医薬品添付文書のガイドライン(英語)(日本語)を再び読んで見ます。以下のように書いてあります。

抑うつ(うつ病)や抑うつ(うつ病)に伴う不安症状の治療にベンゾジアゼピンだけを使うべきではない(そういった患者では自殺が誘発されるかも知れない)」

 "Benzodiazepine should not be used alone to treat depression or anxiety associated with depression(suicide may be precipitated in such patients).

 この文言は、抑うつや抑うつに伴なう不安症状をベンゾジアゼピン だけで治療しようとすると、抑うつが悪化し場合によっては自殺に至ることもありますよという警告であると言えます。因果関係を考えてみると、まず、すでに抑うつ(うつ病)と診断された患者がいて、その患者の抑うつの治療のために、あるいはその患者に抑うつ(うつ病)に加えて不安症状があれば、不安症状の治療のために、ベンゾを投与すると、それまであった抑うつが悪化し、自殺に至るという出来事の流れが明確にあります。ところが上記のアメリカのHandbookはベンゾジアゼピンが「抑うつを単に予防できなかっただけ」と言っていて、もともと患者は抑うつに至ると想定できたが、ベンゾを使ってもそれを防げなかったという主張になります。しかし患者がいずれは抑うつに至るとか、すでにある抑うつが悪化するなどと予想できる人は神様以外には誰もいません。「抑うつを単に予防できなかっただけ」というロジックは単に言い訳のためのロジックに他なりません。大変な詭弁です。それでも世の中の人々、及び社会から権限・権力を与えられた人々である医師、行政官、検察官、裁判官等はこんなインチキ・ロジックに簡単に騙されるでしょう。ハーバード大学医学部教授がベンゾジアゼピンが抑うつをもたらすかどうか因果関係は不明と言っているのだからそうなんだろう、それを信じるしかないということになります。

 因みに、これは追加的コメントですが、上記Handbookの同じページにベンゾジアゼピン誘発性脱抑制(Benzodiazepine-induced disinhibition)についての記載もあります。。以下はその部分の日本語訳と英語原文です。

 ベンゾジアゼピン誘発性脱抑制. ベンゾジアゼピンへの逆説的反応(脱抑制)についての報告、特にクロルジアゼポキシド、ジアゼパム、アルプラゼパムあるいはクロナゼパムを服用中の患者における怒りの爆発や攻撃性について述べた報告が発表されて来た。脱抑制はおそらくどんな種類のベンゾジアゼピンでも起こり得ることであろう。しかし低力価で、吸収が緩慢なオクサゼパムではこの反応はより起こりにくいかも知れない。最も脱抑制が起こり易いのは人格障害の患者で、過去に脱制御の歴史を持つものであると多くの臨床家が感じている。ベンゾジアゼピンを投与された患者に逆説的興奮が救急の場で、あるいは入院病棟で現れた場合には、状況を好転させるのに抗精神病薬の投与が有効である場合が多い。

 "Benzodiazepine-Induced Disinhibition. Reports of paradoxical reactions to benzodi-azepines (disinhibition), in particular  describing rage outbursts or aggression in patients on chlordiazepoxide,diazepam,alprazolam,or clonazepam,have been published. Disinhibition can probably occur with any benzodiazepine, but the lower potency, slowly absorbed
oxazepam may be less likely to trigger this effect. Many clinicians feel that the highest incidence of disinhibition occurs in personality disorder patients with prior histories of dyscontrol. When paradoxical excitemment occurs in a patient given a benzodiazepine in an emergency department or inpatient ward , the administration of an antipsychotic drug
is often effective in reversing the state"

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 ここで注目すべきは「最も脱抑制が起こり易いのは人格障害の患者」というくだりです。真実1の検証の「精神科の診断」で明らかにしたように、精神科医にわかるのは患者の表に現れた行動だけであって、患者の心の中の状態は精神科医はあずかり知らないのです。怒りっぽい人、すぐ激怒したりしする人を見れば、精神科医はそれを人格障害と診断名を付けます。何かいらいらするような因子があると、それにすぐ反応して怒りを露わにするタイプの人と、それとは対極的に、自分の気持ちをこらえて表に出さない性格の人とがあります。ベンゾを服用して心の中ではイライラしても、それをこらえて、うまく自己コントロールして、自己抑制して表にイライラを出さない人の場合には、ベンゾ服用から来るイライラ因子が患者の心の中にあっても、精神科医それを見抜けないのです。そのために自らの心の中のイライラ因子に応じて怒りを表にぶちまける人、つまり人格障害と呼ぶ人に逆説的反応が多いと錯覚してしまうのです。救急の場とか入院病棟とかで、誰の目からみても明白な怒りの発露のみが逆説的反応であると思い込んでいるのです。
さらに言えば人格障害と診断された人々の過去を調べて見ると、薬を全く飲んでいないのにある時怒りをぶちまけるようになったのではなく、既に精神治療薬を服用していたので、その影響下で、その副作用として怒りを爆発するようになったケースが多いのです。

 私は婚約者が自殺した後、自分の心の救いを求めて精神科に通い始めましたが、そこで抗不安薬のワイパックス(一般名lorazepam)やベンゾ系睡眠薬レンドルミン(一般名brotizolam)を処方されて飲み始めましたが、服用開始3ヵ月くらいの時からイライラする気持ちが現れ始め、同居する母とよく言い争いや喧嘩をしました。私は自分の感情のコントロールが比較的うまい方であると思っています。人格障害と診断されるタイプではありません。精神科医との診察の場でもイライラが昂じて爆発をしたこともありません。服用開始後3~4か月頃から減薬・断薬の努力を始め、6~7か月経ったところで完全にベンゾの服用を中止したところ、イライラ感がおさまりました。
 「最も脱抑制が起こり易いのは人格障害の患者」などと聞いてしまうと、それでは人格障害でなければ脱抑制はめったに起こらないと普通の人は思ってしまいます。

 人間には、もともと性格的に怒りっぽい人と、自分の感情を抑えて表に出さないタイプの人と2種類あります。感情を表に出すタイプの人であれば、激怒した状態が表に現れますから、精神科医を含む第三者がそれを見て、この人はすぐに大した理由もなくすぐ激怒する、だからこの人には人格障害があるとレッテルを貼り、人格障害であると診断名を下します。ところが感情を抑えることが得意な人の場合には、同じようにベンゾの作用で心の中ではイライラしていても、表に感情を吐出することはありませんから、人格障害というレッテルを貼られずに済みます。ベンゾの副作用としての心の中のイライラ感は、「人格障害者」に限らず、誰にでも起こっているのです。別に「人格障害者」に限ったことではないのです。ところが真実1真実2によって、それに精神科医は気が付かないだけのことなのです。

 「最も脱抑制が起こり易いのは人格障害の患者」という説明ですが、薬によって現れた異常な精神症状について、元々、精神疾患が患者にはあって(この場合は人格障害)、そのせいでそう言った症状が現れたと主張していることになります。薬の副作用で発生した症状を、それは患者の元々の病気に原因があって発症したかのように捻じ曲げて伝える典型的な精神科医の論法です。

 日本のベンゾジアゼピンの添付文書にはどれをとっても、判で押したように「重大な副作用」として以下の記述があります。

 刺激興奮、錯乱(頻度不明:統合失調症等の精神障害者に投与すると逆に刺激興奮、錯乱等があらわれることがあるので、 観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、 適切な処置を行うこと。」

 ところが統合失調症等の精神障害者に投与するとどのくらいの頻度で刺激、錯乱(逆説的反応)が起きるかの研究・調査は何もありません。(頻度不明)と書いてあることからもそれが判ります。根拠なく、エビデンスもなくこんなことを添付文書で言っているのです。精神治療薬、向精神薬によって、精神症状に有害な副作用が出た場合、それを精神疾患のせいにして、薬に原因はないとする主張は製薬会社や精神科医の常套手段です。

 アメリカではAtivanという商品名で一般名lorazepamのベンゾが販売されていますが、Ativanの添付文書には逆説的反応について以下のように書かれています。

 「ベンゾジアゼピンを使用中に逆説的反応が現れたとする報告が時折ある。そういった反応は
小児、高齢者に多分より現れ易いのだろう。この反応が現れた時は、この薬の使用を中止すべきである。

"Paradoxical reactionshave been occasionally reported during benzodiazepine use. Such reactions may be more likely to occur in children and the elderly. Should these occur, use of the drug should be discontinued."

 同じベンゾジアゼピンでありながら、添付文書での逆説的反応の説明が、国によって、製品によって食い違っているのです。一貫性がありません。どれも確固たる証拠もなく言っているからです。

 企業にとって不都合な事象が現れた場合に、その事象からくる企業にとっての損害を最小限に食い留める努力をすることを企業経営ではダメージ・コントロール(damage control)と呼びます。逆説的反応はある特殊なグループの人々にのみ起こり易いと主張することによって、そのグループ以外の人であれば逆説的反応は起こらないと暗示していることになります。するとそのグループに属さない患者であれば、医師はあまり逆説的反応などを気にせずにその薬を処方できますから、その薬の売り上げも大きく下落することもないということになります。ベンゾ以降に発売されたSSRIという抗うつ薬でも製薬会社は同じ手法を使っています。SSRIの添付文書には18歳未満であるとか24歳未満の若者に処方すると自殺企図のリスクが高まると書いてあります。それでは25歳の人はどうですか、26歳の人はどうですか、30歳ではどうですかと言えば、リスクは変わらないのです。年齢に閾値を設けることによって、すべての患者へのSSRIの処方全体が落ち込むことを避けようとしているのです。これも製薬会社のダメージ・コントロールの試みに他なりません。


いのちの電話」が教えるもの

 財団法人・生命保険文化センターが発行しているオンライン・マガジン「くらしと保険」に2007年9月に掲載されたある記事があります。「日本いのちの電話連盟」常務理事の斎藤友紀雄をインタービューした記事です。その記事の中で斎藤友紀雄が語るところによると、死にたくなって、つまり希死念慮が強まり、怖くなって助けを求めて「いのちの電話」に電話をかけてくる人のおよそ8割は精神科の受診歴があり、自殺未遂者の7割は電話をかけてきた時点で精神科を受診中で、投薬を受けているという事です。斉藤は「自殺者の8~9割はうつ病を抱えているといわれています」とも述べています。精神科を受診しているということはイコール精神治療薬を服用しているということに絶えず思いを致すべきです。。

 「くらしと保険」 2007年9月 斎藤友紀雄のインタビュー
 2015年9月14日にダウンロードしたもの
 
 元のリンクはこちらです。
 https://www.jili.or.jp/kuraho/inochi/web06/i_web06.html


「自殺対策支援センター・ライフリンク」の調査 

 NPO法人・自殺対策支援センター・ライフリンクが自殺実態調査を行い2008年7月に「自殺実態白書 2008」として調査結果を発表しています。305名の自殺既遂者の遺族に、平均2時間半の聞き取り調査を行い、その情報を基に作成されました。調査結果を見ると、自殺既遂者282名(不明23名)の内、58%が生前精神科にかかっており、25%がその他の医療機関を受診していました。58%の精神科に受診していた自殺既遂者は全員何らかの薬物を服用していたと考えられます。また「その他の医療機関」には心療内科とか神経科と呼ばれている診療科も含まれており、そういった診療科では精神科と余り変わらない薬物治療を行っていると考えられます。さらには、一般内科やそれ以外の各種診療科でも、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬(精神安定剤)や睡眠薬、抗うつ薬等を処方しています。そこでも薬物治療が主流なのです。従って「精神科」と「その他の医療機関」を合計すると83%(=58+25)になりますので、「いのちの電話」の場合と同様、自殺既遂者のおよそ8割がなんらかの精神治療薬を服用していたと推定できます。

 ライフリンク 「自殺実態白書 2008」 37頁

 このページの説明やグラフでは、「相談機関に行っていた人」というオブラートに包んだ響きのいい言葉を使っていますが、精神科やその他の診療科での診察を受けて精神治療薬を服用していたという事が大事です。診察で自分が死にたくなったこと、自殺念慮が強いなどという事を相談していたかどうかなどは誰にもわかりせん。

 その後、2013年になって「自殺実態白書 2013」をライフリンクは発表しています。 調査の対象となる自殺既遂者の人数が2008年白書では305名だったものが、2013年白書では523名に増えてますが、調査期間が2007年7月から2012年10月となっていますので、2008年白書用に見つけ出した自殺者305名に、新たに自殺者をどこかで探して来て2013年用に追加して、2013年白書では調査対象自殺者が合計523名になったものと思われます。

 対象となった自殺者は合計523名ですが、その内の25名については自殺時の状況が不明ですので、計算の対象となる自殺者は523-25=498名となります。自殺前に精神科・心療内科にかかっていたのは241名、その他医療機関は144名ですから合計すると241+144=385名が治療を受けていたことになります。385÷498=77.30%ということになります。ここでも自殺者の約8割が何らかの薬を服用していたと推定できます。

 ライフリンク 「自殺実態白書 2013」 1-20頁

 ライフリンクの行った自殺実態調査に応じてくれたのは自殺者の遺族で、全国に散らばっており、東京からライフリンクの調査員が来て平均2時間半~3時間の面接をする事に同意してくれた事例ばかりです。なかなか同意してくれる遺族を見つけるのに苦労があったようで、当初1,000人の自殺者の遺族の聞き取り調査をするとして2007年7月に始めた調査ですが、最終的には自殺者523人分のデータしか集まっていません。しかも10年以上も前の自殺者の遺族から集めたデータもかなり混じっています。個人情報保護、プライバシーの問題があって、自殺者を見つけ出し、特定することも困難な作業と思われます。従ってライフリンクのデータには統計学的なランダム性は欠如しています。どうやって調査対象の自殺者を見つけ出したのか、サンプリングの手順をどう進めたのかについてのライフリンクの説明は何もありません。透明性が欠如しています。

 より実態を正しく反映しているのは次項に挙げる「全国自死遺族連絡会」の調査です。

「全国自死遺族連絡会」の調査

 「全国自死遺族連絡会」というNPO団体があります。息子を自殺で失くした田中幸子という女性が中心になって自殺者遺族の支援活動を行っています。ライフリンクの場合には自殺者遺族でメンバーになっている人は極めて少ないのですが、「全国自死遺族連絡会」の場合にはメンバーは全員自殺者遺族です。前項で取り上げたライフリンクの調査で面接調査に応じてくれた自殺者遺族の多くが「全国自死遺族連絡会」がライフリンクに紹介した人達であるようです。「全国自死遺族連絡会」の調査では田中幸子代表世話人や彼女の仲間達が遺族と直接接触して、情報を集めています。

 2010年4月7日に国会議員に自殺の問題を理解してもらうために、衆議院議員会館で勉強会を開き、代表世話人田中幸子が自分たちの調査で判った事を発表しました。その時に田中が勉強会参加者に配布した資料のコピーをご紹介します。また「全国自死遺族連絡会」の調査結果や活動について報じた地方紙の河北新報と読売新聞の記事を参考までに添えておきます。

 「1000を超える自死遺族への独自調査で浮かんできた問題点」
 全国自死遺族連絡会 世話人 田中幸子

 参考新聞記事
 河北新報 平成22年(2010年)4月27日
 読売新聞 2010年(平成22年)5月4日

 ライフリンクの調査は523名の自殺者遺族の聞き取り調査でしたが、この「全国自死遺族連絡会」の調査の場合には1,016人の自殺者遺族と、母集団がより大きく、田中幸子代表世話役や彼女の仲間が遺族と親密にやりとりして聞き出した情報ですので、実態をよりよく反映しており、統計上のサンプルとしては信頼性が高いと思われます。

 この資料では全平均で自殺者の約7割が生前に精神科を受診していたと指摘されています。また20代、30代、40代、50代の女性自殺者は100%全員精神科を受診していました。自宅マンションからの飛び降りによる自殺者72名が「全員」精神科の診療を受け、1回の服用5錠~7錠、1日3回、他寝る前に頓服、睡眠導入剤を服用していたとの事です。自宅、自宅近辺での自死は精神科の受診率が高いともこの配布資料には書いてあります。


 自殺者の約7割が生前に精神科を受診していたとのことです。精神科以外の診療科にかかっていた自殺者を全国自死遺族連絡会は数えていませんが、ライフリンクのデータと同じように、精神科以外の診療科にかかっていた人が2割前後はいたのではないかと推定できます。言い換えれば自殺者の9割前後は何らかの精神治療薬を服用していたことになります。

 その後も全国自死遺族連絡会は調査を続け、2010年4月から2013年2月の期間にも聞き取り調査を行ない、調査した遺族の数はさらに1,001名追加されました。その内、精神科受診をしていたのが902名でしたので、精神科受診率は902/1001=90.1%になります

ある精神科医の証言

 2008年(平成20年)8月29日、、朝日新聞朝刊の読者投書欄「私の視点」に、ある精神科医の投書が載りました。日本の年間自殺者数が3万人を超える状態が何年も続き、メディアでもそれに注目して盛んに報道していた時期です。


 「私の視点」 精神科医 鶴田聡
 朝日新聞・朝刊 2008年(平成20年)8月29日

 この精神科医は20年間で自分の診ていた患者の内、56人が自殺したということです。一年間の自殺者は平均2.8人となります。驚くべき数字ですが、よく考えてみれば、当然そうなる筈の数字なのです。

 内閣府の平成21年判自殺対策白書によると、平成20年の日本の公式統計上の総自殺者数は32、249名でした。これに対して厚生労働省の「医師、歯科医師、薬剤師調査」によると、平成20年の精神科医の数は13,534名でした。13,534名と言っても実際には高齢であったり、研究職であったりで、実際には患者の診察をしていない精神科医も数に含まれていると考えられます。従って常時臨床に携わっている精神科医数は、大変大雑把な数字ですが、12、000名くらいかも知れません。平成20年の公式自殺者32,249名の内、仮に8割が精神科にかかっていたとすれば、これも大雑把な数字ですが、自殺者の内、精神科医にかかっていたのは凡そ25,000名(32,249X0.8=25,799)ということになります。従って、25,000名÷12,000名=2.08名というのが精神科医1人当たりの平均年間自殺者数となります。ですから先程挙げた朝日新聞に投書した精神科医の数字は平均から大きくかけ離れた数字ではないのです。
精神科医1人当たり年間2名以上の自殺者を自分の患者から出しているのです。投書した精神科医は自殺を精神病院のあり方や社会制度のせいにするばかりで、向精神薬が自殺を誘発しているなどとは一切言っていません。

ピーター・ブレギンの場合

 真実6の検証の節で紹介したアメリカの精神科医の言った言葉を再びここで振り返って見ましょう。彼は病院勤めではなく、ニューヨーク州イサカ市に自らのクリニックを持つ開業精神科医です。40年間開業していて、自分の患者に自殺者を出したことは一度もないと彼は言っています。20年で56人の自殺者を出した日本の精神科医と、40年で自殺者ゼロのブレギンとは余りにも対照的です。どこに違いがあるのでしょうか。薬の処方であることは明らかです。ブレギンはこう書いています。

 「これは何度繰り返して言ってもいい。抗うつ薬は効果がないだけではなく、抗うつ薬の服用を始めることも、抗うつ薬を止めることも危険なことである。最良の忠告は抗うつ薬には手を出すなということである。私は40年間に及ぶ精神科臨床で、離脱過程の患者が離脱をうまく進められない時に抗うつ薬を処方することはあっても、患者に抗うつ薬を開始させたことは一度もない。確かに幸運も疑いなく働いていたと思うが、私が患者にこれらの薬を開始させないということが、私の臨床では自殺者を一人も出していないという成功に与かっていると私は信じている。薬を出さないことで、抗うつ薬の誘発する自殺を予防することになるが、加えて、一緒になって、より効果的で希望あふれる生き方を見つけようと自分にも患者にも激励している。」

 

  ”It bears repeating that antidepressants are dangerous to start taking and dangerous to stop taking as well as ineffective. The best advice is to stay away from them . In 40 years of psychiatric practice, I have never started a patient on an antidepressant, although I do prescribe them during the withdrawal process or if the patient is unable to go through withdrawal. Although good fortune undou btedly plays a role as well, I believe that my refusal to start patients on these drugs has contributed to my success in never having a suicide in my practice. In addition to preventing antidepressant-induced suicidality, by not giving the medications I encourage myself and my patients to work together to find more effective and hope-inspiring ways of living.”


"Brain-Disabling Treatments in Psychiatry: Drugs, Electroshock, and the Psychopharmaceutical Complex" (「脳をダメにする精神科の治療:薬、電気ショック、及び精神科製薬会社複合体」) Chapter 7 Antidepressant-Induced Mental, Behavioral, and Cerebral Abnormalities (第7章 抗うつ薬に誘発された精神、行動、脳の異常) p192

 上に引用した文章はこの本の中の第7章の抗うつ薬を取り上げた部分でブレギンは書いています。また抗うつ薬と自殺との関係がアメリカで問題になっているので、患者に抗うつ薬を開始したことはないとブレギンは述べていますが、抗うつ薬のみならず、一切の向精神薬をブレギンは患者に開始することはありません。これは彼の多くの著作を読めば明白です。


                 ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

 上述のライフリンク代表の清水康之が自殺について語り合うあるシンポジウムでこんな事を言っていました。ライフリンクというと、死にたくなったり、自殺したくなったりした時に相談に乗ってもらえる所、カウンセリングの場だと思って時々電話がかかってくることがあるようです。(実際は「いのちの電話」と違ってカウンセリングはやっていません。) ある時、そういった電話をかけて来た人に、それでは精神科にでも行ったらどうですかと助言すると、その電話をかけて来た人はこう言ったそうです。

 
「今精神科に来ていて、そこから電話しています。」

 
                  ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

 同じシンポジウムで、岩波明という精神科医(現在昭和大学医学部教授)がこうも言っていました。精神科医の中には診察で患者が死にたいと言った場合には、それではどこか他の精神科に行ってくれという人がいるそうです。

 精神科に通っているということは、何らかの向精神薬を服用していることを意味すると考えなくてはなりません。精神科にかかるから薬を飲まされて、その結果死にたくなるのです。内閣府が毎年発行している「自殺対策白書」では自殺対策の1項目として「適切な精神医療を受けられるようにする取組」とうたっています。この白書の作成には精神科医も関与していると思われますが、真実を知らない人が書いた見当はずれの議論です。精神医療を受けることが自殺につながるという事を思い知るべきです。


 

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