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ベンゾジアゼピン


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読者のコメント

(注)
著者の佐藤裕史は現在は慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター長・教授です。






































































































































































































































(注)
ドイツでは医薬品添付文書にはは「使用情報:使用者のための情報」(Gebrauchsinformation: Information für Anwender)という表題がついています。服用者が読むためという意味が込められています。文書内でも「あなた」という言葉を使って服用者に呼びかけています。
これとは別に医師用の医薬品添付文書(Fachinformation‐専門情報))という文書があります。基本的には内容は前者とあまり変わりませんが、後者はさらに専門的で詳しい内容のことが書かれています。
ドイツでは処方箋薬も大衆薬と同じようにあらかじめ包装されたパッケージに入れられて薬局で手渡されるのですが、そのパッケージの中に「使用情報:使用者のための情報」(Gebrauchsinformation: Information für Anwender)が初めから同封されています。
「ドイツの薬の外箱と使用説明書(添付文書)」2015年6月22日ダウンロード
元のサイトはこちら
 
日本では薬局で大衆薬を買うとパッケージには使用説明書が必ず同封されていますが、処方箋薬となるとくすりのしおり以外の説明書は患者は何も貰えないのです。異常な習慣ですね。
そもそも処方箋薬は大衆薬よりも副作用リスクが高いので、医師の処方箋がないと薬局で買えないようになっているのですが、大衆薬の方がかえって詳しい使用説明書が初めから付いてきます。処方箋薬は「くすりのしおり」以外には患者は何も情報を貰えないのです。処方箋薬の服用方法については医師が指導するという前提でこんなやり方をしていると厚労省は言い訳をするとおもいます。しかし精神科医は5分で診察を終えていいのですから、5分では詳しい薬の説明は無理です。さらには日本の精神科医は欧米と比べてより簡略化された医薬品添付文書さえ読んでいないことが多いのです。何をかいわんやです。































































































































































































































(注)
ロヒプノール(Rohypnol)という商品名はロシュ(Roche)という会社名に催眠剤とか睡眠薬を意味する言葉hypnoticsとを組み合わせた合成語です。ロシュの催眠薬という意味です。




















































































































































































 

ベンゾ大国の日本

  現在日本でまた世界で使われている抗不安薬(精神安定剤とかマイナー・トランキライザーと呼ばれることもある)や睡眠薬のほとんどが、ベンゾジアゼピン(benzodiazepine)と呼ばれる化学構造や作用機序が類似する薬です。ベンゾジアゼピン系薬剤には依存性があり、薬をやめようと思っても離脱症状があるのでやめるのが難しいという事、また真実6の検証で述べた「逆説的反応」(日本では「奇異反応」と呼ぶ)と呼ばれる有害反応があるので注意すべきであるということは日本と比べ、欧米の方が広く周知されているようです。

 
ベンゾジアゼピンについての欧米の事情にも明るいと思われるある日本の医師が、日本の医師のズサンなベンゾ処方習慣について、2003年に発表された以下の論文で警告を発しています。

 「日常臨床におけるbenzodiazepine ―過剰・長期投与と離脱の問題についてー」
  佐藤裕史 著  日本大学医学部精神神経科学講座 日大医学雑誌  2003年62(9)

 しかしこういった論文はどこかに埋もれていて、誰もそれに注目することもなく、世界的に見ても異常な日本のベンゾ処方は相変わらず続いています。

 ベンゾには依存性があるから、患者は薬をもらうために繰り返し診察に来てくれるだろうという
「医は算術」的な動機からベンゾの処方を続ける不届きな医者もいることでしょう。日本社会には医者の医療行為を取り締まり、規制するという機能が大きく欠如しています。政府や厚労省は日本医師会や製薬業界の方ばかりに目を向け、国民の利益は、国民の命と健康は二の次です。また司法が、取り締まりや規制の要であるべきなのですが、医師、特に精神科医がどんなデタラメで危険な薬の処方をしても、司法は只それを黙認するばかりです。処方権や裁量権というフィクションと固定観念に支配され、医師がどんな有害な処方を行っても裁判所は異議を唱えません。その結果として、薬の処方について医師の側にまるで緊張感がありません。

 ここで現在日本で使われているベンゾジアゼピン系薬剤にどんなものがあるか見てみましょう。

 2014年11月発行の「臨床精神神経薬理学テキスト 改訂第3判」 (星和書店)によると、現在日本で使われているベンゾジアゼピン系抗不安薬は18種類、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は14種類あります。睡眠薬のzopiclone(商品名アモバン)とzolpidem(マイスリー)は厳密には化学構造はベンゾジアゼピンではありませんが、作用機序はベンゾジアゼピンと同類と考えられます。
 国際連合の付属機関でウイーンに本部を置く、国際麻薬統制委員会(International Narcotics Control Board -INCB)という組織があります。いわゆる麻薬のみではなく、INCBの根拠となる国際条約で向精神薬(psychotropic drugs)と定義される薬について、INCBは各国における製造、輸出入、使用状況を監視しています。ベンゾジアゼピン系薬剤は向精神薬とみなされています。ベンゾジアゼピンはすべてSchedule IV (第4類)に分類されていますが、例外として、fulnitrazepam(日本での商品名:ロヒプノール及びサイレース)だけは警戒度の高いSchedule III (第3類)に分類されています。。

 INCBに加盟する国々は、条約で定義された向精神薬について、年間の製造量、輸出入量、推定必要量をINCBに報告することが義務づけられています。INCBのウェブサイトには以下の表題のつけられたウエブページがあります。

 Assessments Psychotropic Substances
 Assessments of annual medical and scientific requirements for substances listed in
  Schedule II, III and IV of the 1971 Convention on Psychotropic Substances

 
 以下はこの表題の日本語訳です。

                「向精神薬推定必要量
 1971年の向精神薬についての条約で第2、3及び4類と規定された物質の、医療及び科学のために使う年間推定必要量(assessments)」

 
 年間推定必要量とは年間推定使用量とほぼ同じであると考えられます。この年間推定必要量の数字は毎月アップデートされているようです。

 上記ウエッブページの、Monthly assessments updated as of 1 February 2015 (pdf)-(TXT)と書いてある部分のpdfをクリックすると、

 2015年2月1日現在の各国の向精神薬の年間推定必要量が得られます。
 (このリンクにはINCBのサイトからダウンロード済みのものを載せています。)

 2005年から2012年までの国別年間推定必要量は以下のINCBのサイトで得られます。
 https://www.incb.org/incb/en/psychotropic-substances/technical_reports/technical_
 reports-index.html


 次に、向精神薬の中からベンゾジアゼピン系薬剤だけを取り出して、2015年2月1日現在の日本、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカの年間推定必要量を比べるために筆者が表を作ってみました。以下をクリックするとその表を見ることができます。

 「ベンゾジアゼピン年間推定必要量の日本と欧米主要国との比較」

 (注:「臨床精神神経薬理学テキスト 改訂第3判」 (星和書店)では日本にあるとされるベンゾジアゼピンで、INCBのデータではその年間推定必要量が書いてないものがいくつかあります。)

 ここに挙げられている年間推定必要量が多いか少ないかを考える場合には各国の人口規模も勘案する必要があります。参考までに、これら5ヵ国の2013年の人口を挙げておきます。日本(1億2730万)、イギリス(6,410万)、フランス(6,603万)、ドイツ(8,062万)、アメリカ(3億1612万)。

 筆者の作成した表を見ると、国によってよく使われているベンゾジアゼピンの種類に違いがあるのがわかります。しかし人口を勘案したとしても、全体としては日本ではベンゾジアゼピンの種類が多く、かつ他国と比べて大量に使われていることは紛れもありません。逆に、5ヵ国の中ではイギリスが目立ってベンゾジアゼピンの種類と使用量が少ないのが判ります。イギリスで使用量が少ないのには以下に述べるような大きな理由があります。

イギリスにおけるベンゾジアゼピン

 イギリス政府保健省(Department of Health)の配下にMHRA(Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency)‐医薬品・医療製品規制庁‐と呼ばれる部門があり、MHRAはイギリスにおける医薬品や医療機器の承認や安全性についての責任を持っています。MHRAの下に組成された専門家からなる委員会の一つにCommitee on Safety of Medicines(医薬品安全性委員会)という委員会があります。この委員会が早くも1988年1月にベンゾジアゼピンの危険性について的を得た以下の警告を発しています。

 「医薬品安全性委員会 - 現在の問題 1988年1月」(日本語訳)

 ”Current Problems - Commitee on Safety of Medicines January 1988」(英語原文

 この英語原文は以下のMHRAの公式サイトで今でも閲覧・ダウンロードできます。」

 http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20141205150130/http://www.mhra.gov.uk/
 Publications/Safetyguidance/CurrentProblemsinPharmacovigilance/CON2024486

  
 既に1988年の段階でベンゾジアゼピンの依存や離脱症状の問題を指摘しています。またベンゾジアゼピンを抗不安薬として使う場合には服用期間は2~4週間を限度とすべきこと、睡眠薬として使う場合には4週間を限度とすべきことと、具体的な期間を数字で示しています。さらには抑うつ症状や脱抑制といったいわゆる逆説的反応があること、その結果として自殺が誘発されることがあるとも述べています。

 British National Formulary-BNF (英国国民医薬品集)という名の6ヵ月に1回発行される書籍があります。マンスリー・アップデートもオンラインで提供されています。NHS(National Health Service)というイギリスの国民健康保険で利用可能なすべての医薬品についての情報が盛り込まれています。ベンゾジアゼピンでこの医薬品集に入っているのは睡眠薬(hypnotics)5種類、抗不安薬(anxiolytics)5種類のみです。

 British National Formulary March 2015 - September 2015

 BNFにはベンゾジアゼピンの依存や離脱症状、短期の処方のみといったベンゾジアゼピンの注意事項が書いてります。BNFはイギリスの医師であれば、必携の書ですから、ベンゾジアゼピンについての注意事項はイギリスの医師の常識となっていると思われます。裁判になってもBNFに書いてある注意事項を医師が守っていなければ、医師の立場は悪くなる筈です。
 
 先進主要国の中で、イギリスの自殺率が低いということが知られています。人口10万人当たりの自殺者数が尺度としてよく使われていますが、イギリス2009年の10万人当たりの自殺者数は6.9人(男女合わせた総数)、これに比べ日本の2009年の自殺者総数は24.4人(男女合わせた総数)です。イギリスの自殺率は日本のおおよそ4分の1です。本サイトの最後にかけて出てくる章、「自殺の真相」「日本の本当の自殺者数」を読んで見れば判りますが、実は、真の日本の自殺率はイギリスの4倍どころではありません。さらに何倍もプラスしなければならない状況なのです。待ちきれない読者は今すぐ、「自殺の真相」の節にある日本の本当の自殺者数」に飛んで行って読んでみるといいかも知れません。イギリスは精神科で認知行動療法が発達しているからとか、日本程、競争社会ではないから自殺率が低いとかまことしやかに解説する専門家がいますが、すべて的外れです。

 イギリスではベンゾジアゼピンの危険性をテーマとする個人が立ち上げたウェブサイトが以下の例のように多数あります。すべて英語で書かれていますので、言葉の壁が立ちふさがっていて、なかなか日本まで情報が流れてきません。

 http://www.benzo.org.uk/index.htm  

  上記はベンゾジアゼピンの問題を取り上げている最も包括的なサイト。ベンゾジアゼピンの依存・離脱問題を専門とする精神科医師、ヘザー・アシュトン教授が執筆したアシュトン・マニュアルもこのサイトで閲覧できます。

 http://www.benzosupport.org/
 http://beyondmeds.com/benzos/
 http://www.non-benzodiazepines.org.uk/
 http://www.drregpeart.org/index.html
 https://www.facebook.com/BenzoBeware
 http://www.patient.co.uk/health/stopping-benzodiazepines-and-z-drugs
 http://www.psychmedaware.org/

 ベンゾジアゼピンの被害を受けた当事者やその他の人が書いた本も以下のように多数出版されています。

 http://www.benzo.org.uk/bzbz.htm
 http://www.drregpeart.org/books.html

 これだけ古くからベンゾジアゼピンの危険性に気が付き、社会に警告が流れている国であっても、いまだに上記のようなウェッブサイトがあり、本も出版されているという事実が物語ることは、ベンゾジアゼピンが今でもイギリスで問題になっているということです。最近になってもベンゾジアゼピンの処方が依然として減らないとして、国会議員が国会でも問題にしています。

 日本にもベンゾジアゼピンの危険性を訴えるウェブサイトがあります。以下に挙げるこのサイトを立ち上げたのは日本人ではなく、英語を母語とするウェイン・ダグラスという名のニュージーランド人です。彼は日本に長く住み、日本語も堪能のため、このサイトは日本語と英語と、2ヵ国語で書かれています。ベンゾからの離脱方法を解説するアシュトン・マニュアルの日本語訳も掲載されています。
 
 http://www.benzo-case-japan.com/publicity-japanese.php

 日本人が立ち上げたウェブサイトも最近出始めています。

 http://quit-benzodiazepines.blogspot.jp/
 http://www.danyaku.jp/entry/2014/03/24/192113


欧州連合(EU)におけるベンゾジアゼピン

 欧州連合(European Union - EU)にはその下部組織の一つに欧州医薬品庁(European Medicines Agency -EMA)があります。EU加盟諸国(現在は28ヵ国)の間での医薬品行政や規制の統一と調和を図るという目的で設立されたものです。製薬会社は新薬の承認を受けるのに、以前はEU加盟国ごとに申請を出していたのですが、今ではEMAだけに申請を出して、EMAで新薬が承認されれば、加盟国のすべてでその新薬を販売できるというメリットがあります。アメリカのFDA(食品医薬品局)と類似していますが、違う面もあります。

 ベンゾジアゼピン系薬剤をEMAに承認してもらい、EU加盟国内で販売するためには、このような医薬品添付文書を作って下さいとEMAが定めたガイドライン、言い換えれば、ひな型になるようなベンゾジアゼピンの医薬品添付文書をEMAは発表しています。このガイドラインを満たさないベンゾジアゼピンの添付文書はヨーロッパでは承認されないことになります。EU本部のDirectiveと呼ばれる指令に基づいて作られていますから法的拘束力があります。


 "Summary of Product Characteristics for Benzodiazepines for Anxiolytics or Hypnotics"
 (抗不安薬もしくは睡眠薬としてのベンゾジアゼピンの精神特徴の概要)

 上記文書の日本語訳

 尚、日本でいう医薬品添付文書をEU内のイギリス等の国では「製品特徴の概要」(Summary of Product Characteristics)と呼んでいます。

 英語原文は以下のEMAサイトで閲覧・ダウンロードできます。

 http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Scientific_guideline/
 2009/09/WC500003774.pdf

 EMAのガイドラインは依存や離脱症状について詳細に、具体的に述べています。服用期間についても、抗不安薬として使う場合には8-12週間まで、睡眠薬として使う場合には2-4週間までを限度とするとしていて、数字で服用許容期間を限定しています。さらには逆説的反応についても明解に述べています。

各国の医薬品添付文書の例

 日本のようにベンゾなら何でも揃っているという状況ではなく、国によって使われているベンゾジアゼピンの種類に違いがありますが、イギリス、フランス、ドイツさらに加えてアメリカのベンゾジアゼピンの医薬品添付文書の代表的なものを以下に挙げて見ます。

イギリス

 イギリスで使われているベンゾジアゼピン系抗不安薬の内、alprazolamを例としてあげます。alprazolamはイギリスではPfizer Limited(アメリカの大手製薬会社Pfizer Inc.のイギリス現地法人)という会社がXanax(ザナックス)という商品名で売っています。日本ではalprazolamはソラナックス(ファイザー)、コンスタン(武田薬品工業)といった商品名で、またその他ジェネリックの商品も出回っています。。
 
 イギリスでは日本で言う医薬品添付文書のことをSummary of Product Characteristics - SPC(製品特徴の要約)と呼んでいます。以下のリンクでXanaxのSPCを閲覧できます。日本語訳は付けていませんが、EMAのガイドラインに沿った内容の事が書いてあります。

 http://www.medicines.org.uk/emc/medicine/9659

 2015年9月16日にダウンロードしたXanaxの添付文書のファイルはこちらです


 ちなみに、イギリスで承認されているすべての処方箋薬の添付文書は以下のサイトで閲覧・ダウンロードできます。

 EMC - Medicines
 http://www.medicines.org.uk/emc/browse-documents
 

 これと比べる意味で、、Pfizer Inc. の日本法人であるファイザー(株)の作成した、日本で販売されているソラナックス(alprazolam)の医薬品添付文書を以下のリンクで見て下さい。

 日本の医薬品添付文書 - ソラナックス 2015年3月4日ダウンロード

 日本で販売されている処方箋薬の添付文書は医薬品医療機器総合機構の以下のサイトで検索すれば、最新のものを閲覧、ダウンロードできます。

 医薬品医療機器総合機構 医療用医薬品の添付文書情報
 http://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html


 日本のソラナックスの添付文書では、依存性や離脱症状を副作用の第一番目に挙げてはいるものの、投与期間については具体的な数字を挙げて期間を限定していません。2番目の副作用である「刺激興奮(頻度不明)、錯乱(頻度不明)」は逆説的反応の一部と考えられますが、ここでの書き方からいうと、この副作用は統合失調症等の精神障害者に限られると読者はとるでしょう。また逆説的反応という言葉が日本の添付文書では使われていません。日本のベンゾジアゼピン系薬剤の添付文書では、ソラナックスに限らず、どれをみても同じ様な文言が書いてあります。

フランス

 どのベンゾジアゼピンでもいいのですがフランスと、この後に来るドイツについては抗不安薬のbromazepam(ジェネリック名)を例としてあげます。フランスではLexomilという商品名(Rocheが販売)で売っていますが、ジェネリック製品もいくつか出ています。bromazepamは日本ではレキソタンという商品名で販売されています(中外製薬とエーザイの共同事業)。この薬はイギリスとアメリカでは承認されていない薬ですが、フランス、ドイツでは承認されているので、両国それぞれにbromazepamの医薬品添付文書が存在します。フランス語やドイツ語は苦手という読者が多いと思いますので、それぞれ日本語訳も掲載しておきます。

 フランスのブロマゼパムの添付文書(Lexomil) -フランス語原文 
 Résumé des Caractéristiques du Produit (RCP) - Lexomil
 2015年3月7日ダウンロード

 上記の日本語訳

 フランス語では医薬品添付文書をRésumé des Caractéristiques du Produit (RCP)と呼んでいますが、英語のSumary of Product Characteristicsと同じ意味です。

 フランスの処方箋薬の添付文書はフランス政府機関であるANSM-Agence nationale de sécurité du médicament et des produits de santé(国立医薬品・医療用品安全管理機構)の以下の公式サイトで閲覧、ダウンロードできます。

 ANSM(Agence nationale de sécurité du médicament et des produits de santé)
 http://agence-prd.ansm.sante.fr/php/ecodex/index.php

 

ドイツ

 bromazepamはドイツではRocheがLexotanilという商品名で販売しています。これ以外にもジェネリック製品もいくつかあります。ここではLexotanilの添付文書を例として見てみます。フランスではbromazepamの許容される服用期間は12週間(3ヵ月)でしたが、ドイツでは4週間と短縮されています。

 ドイツのブロマゼパムの医薬品添付文書(Lexotanil) - ドイツ語原文
 2015年3月7日ダウンロード

 上記の日本語訳

 ドイツの医薬品添付文書は以下のPharmNet. Bundという公式サイトで閲覧・ダウンロード可能ですが、検索するのにドイツ語の知識が多少必要です。
 http://www.pharmnet-bund.de/dynamic/de/am-info-system/index.html

日本の添付文書との比較

 ブロマゼパム(一般名)はアメリカとイギリスでは承認されていない薬です。従ってアメリカとイギリスにはそもそもブロマゼパムの医薬品添付文書は存在しません。ブロマゼパムが承認されているフランスとドイツでも、これらの国の上に挙げた添付文書を見て判るように、使い方にこれ程の制約を設けているのです。

 さて、ひるがえって日本の状況を見てみます。日本ではブロマゼパムはレキソタンという商品名で、中外製薬との取り決めで、エーザイが販売しています。比較するために、日本のレキソタンの添付文書を以下に見てみます。

 日本のブロマゼパムの医薬品添付文書( レキソタン)
 2015年3月7日ダウンロード

  先程見たソラナックスの場合と同じように、日本の添付文書では許容される投与期間について具体的な数字で期間を限定していません。逆説的反応という言葉も使っていません。調べて見ればわかりますが、日本ではベンゾジアゼピン系薬剤の添付文書には、すべて判で押したように同じ言葉が書いてあります。服用期間についての制限を明確に数字で表したものは何もありません。

 欧米では医薬品添付文書は患者(服用者)も読むという前提で作られています。国によって若干の違いはありますが、法律・規則によって処方薬を患者に渡す時は必ず医薬品添付文書かそれに準ずるものを薬と一緒に渡すことになっています。先日、私は日本のかかりつけ医から降圧剤の処方を受けて、処方箋を調剤薬局に持って行きました。この薬の添付文書を見たいと薬剤師に言ったところ、他の薬の添付文書と一緒にバインダーに入っているので、店内で見ることはできるということでした。コピーを取ってくれないかと依頼したところ断られました。

 日本では薬局が患者に添付文書を手渡す義務はないのです。その代わり「くすりのしおり」という1ページもののチラシをくれます。それでは日本のbromazepamであるレキソタンの「薬のしおり」を見てみましょう。

  「くすりのしおり レキソタン」 2015年9月14日ダウンロード

  http://www.rad-ar.or.jp/siori/kekka.cgi?n=3584

 すべて平仮名で「くすりのしおり」と書いてあることが象徴的ですが、小学生の知的レベルに合わせてこれを書いたのではないかと思える程簡単なことしか中には書いてありません。。薬の副作用はできるだけ患者に知らせない方がいい。副作用を知ったら、患者は怖がって薬を飲んでくれなくなるからという発想の世界が裏にはあるのです。製薬会社や医師にとっては何と都合の良い制度ではないでしょうか。インフォームド・コンセントなどと綺麗事を世間では言っていますが、現実にはそれとは全く反対の事が日本の社会では行われているのです。

 ベンゾジアゼピンの生みの親、スイス国籍のRocheという会社も問題です。ジェネリック名、bromazepamという薬の副作用の危険性についてはフランスやドイツの添付文書ではあれだけ詳しく説明しているのですが、Rocheの日本子会社である中外製薬が作成した、日本の添付文書には、極めて不十分なことしか書いてありません。日本でもヨーロッパでも、同じ物質の同じ薬を、同じ人間を対象に売っているのです。添付文書の内容を日本とヨーロッパで何故変えなくてはならないのでしょう。この会社の倫理観が問われるべきです。Rocheとその日本子会社である中外製薬が、極めて重大な副作用を知りながら、それを日本の厚生労働省に報告し、日本国民に伝えていないというのは、日本の薬事法違反ではないでしょうか。

 こんなお粗末で、隠蔽的な添付文書でベンゾジアゼピンの薬を安易に許可してしまう日本の薬事行政も大いに問題です。厚労省(旧厚生省)の役人と製薬会社や医師会の間の癒着関係が疑われても仕方のないことです。国民の生命と健康が何よりも優先する目標である筈ですが、製薬会社と医師の利益に絶えず気を配りながら行政を行うからこうなるのです。

アメリカ


 イギリスの所で取り上げたalprazolamはアメリカでもXanaxという商品名でPfizerの子会社であるParmacia-Upjohnという会社が販売しています。しかもアメリカではかなり大量に使われていることが先程挙げた国際麻薬統制委員会(INCB)データからも判ります。アメリカのXanaxの添付文書label(アメリカでは添付文書のことをlabelという)は22頁もあり、添付文書としては異例の長さです。長い理由はXanaxの有効性と安全性を訴えんがために、言い訳、弁明ととれる説明を加えたために、長くなったのです。そこで挙げている副作用の評価試験は、低服用量で4週間という短期間のものであったり、患者数が少なかったり、さらに本サイトで解説するような理由によって、とても信頼できるものではありません。ヨーロッパのEMAのガイドラインではベンゾジアゼピンを抗不安薬として使う場合の許容される服用期間は8~12週間ですから、4週間の副作用試験では副作用が顕著に現れる前に試験を終えています。

 アメリカにおけるXanaxの添付文書(label)
 (英語原文のみ、2015年3月9日にDrugs@FDAサイトよりダウンロード)

 FDAのXanaxやその添付文書の審査に大いに疑問が残ります。またこのlabelを読んでそれを単純に信じてしまうアメリカの医師や精神科医達にも問題があります。添付文書が適切かどうかは判らないけれども、添付文書通りにやっていれば裁判を起こされても、製薬会社の責任にして、医師の過誤は問われないだろうという読みが医師の側にもあるのでしょう。

 アメリカのXanaxのlabelには投与期間の限度についての記載もありません。日本の真似をして、限度期間など設けず、できるだけ長期間使ってもらおうという製薬会社の思惑が背景にはあるのでしょう。Xanaxを開発・販売しているUpjohnとPfizerという会社から見ればXanaxの良い点と思われそうな情報を寄せ集めてきて、この添付文書を作り上げたことでしょうが、こんな抜け穴だらけの添付文書でこの薬を手放しで承認してしまうFDAの姿勢は大いに糾弾されるべきです。

 PfizerはalprazolamをXanaxという同じ商品名でヨーロッパでも売っているのですが、アメリカで使われている添付文書は先程説明したEMAのベンゾジアゼピン添付文書のガイドラインを満たしていないので、Xanaxのアメリカの添付文書はヨーロッパでは使えません。

 アメリカでは、ベンゾジアゼピンの添付文書を改正すべきであるとする市民の請願書がFDAに提出されていますが、FDAがそれに反応して、添付文書を製薬会社に改正させるまでには今の所至っていません。

 Pfizerに買収される前に、Upjohnという会社が開発したalprazolamは今アメリカにわざわいをもたらしています。Upjohnはハルシオン(Halcion)という商品名で売っているベンゾジアゼピン系睡眠薬であるtriazolamの開発・販売元でもあります。Halcionもそれを承認している国にとっては今でもわざわいとなっています。

ベンゾジアゼピンと自殺(アメリカの例)

 アメリカ連邦政府の保健福祉省(U.S. Department of Health and Human Service)の下部組織である薬物乱用・メンタルヘルスサービス庁(Substance Abuse and Mental Health Services Administration)がDrug Abuse Warning Network (DAWN)(薬物乱用警告ネットワーク)と称するプログラムの下で、全米の薬物乱用(アルコール・医薬品を含む)とメンタルヘルスに関するデータを収集しています。DAWNの出したレポートの一つに、2008年に全米の病院の救命救急センター(Emergency Departments)に運ばれた薬物関連の自殺企図者の件数や、薬物使用状況を集計し,それをまとめて2010年に出したレポートがあります

 The DAWN Report, May 2010

このレポートで注目すべきデータが載っている表の部分を、以下日本語に訳して引用します。
(注:1件の自殺企図事例には平均2.4剤の薬物が関与していますので、以下の表で薬物の種類毎の件数を合計すると救命救急センターへの合計搬送件数より数は大きくなり、パーセントを合計すると100パーセントを超えます。また、薬物関連の自殺企図といった場合、過量服薬による自殺企図だけではなく、自殺手段が過量服薬ではなくても自殺企図に薬物がからんでいると思われる場合も含みます。)
 
 

「25歳以上の成人で薬物関連の自殺企図のために救命救急センターに運ばれ

た事例に関与していた主な物質: 2008年       

 

  薬物の種類            救命救急センターへの推定搬送件数    

救命救急センターへの合計搬送件数         138,108件     

アルコールと他の薬物との併用           45,300件      

非合法麻薬                    26,377件      

コカイン                    17,032件      

  マリファナ                    9,999件       

医薬品                     131、106      

   抗不安薬(例:抗不安薬、鎮静薬、催眠薬)     62,522件      

ベンゾジアゼピン(例:アルプラゾラム     46,472件     

抗うつ薬                         28,972件      

抗精神病薬(例:クエチアピン)          18,844件      

   麻薬系鎮痛薬(例:オキシコドン)         21,302件      

   アセトアミノフェン製品                    14,775件      

   抗痙攣薬                                     10,348件      

   心臓血管薬                               11,024件」 

 


 抗不安薬、鎮静薬、睡眠薬はベンゾジアゼピン系薬剤が大多数ですが、ベンゾジアゼピンがからむ自殺企図数が多いのに気が付きます。アメリカでは日本よりもベンゾジアゼピンの処方を厳しく制限していますが、それでも自殺企図者の内のこれだけ多くの人がベンゾジアゼピンを服用していました。

 同じような全国レベルの調査データで日本のものは見つかりませんでしたが、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の日本に於ける処方件数は欧米諸国と比べて飛び抜けて多く、逆にアルコールや非合法麻薬の問題は米国と比べて少ないので、同じような全国レベルの調査を日本でやったとすれば、ベンゾジアゼピンがからんだ自殺企図の比率が圧倒的に高くなるであろう事は想像に難くありません。

 アメリカでの添付文書の話にまた戻ります。アメリカのalprazolam(商品名Xanax)の添付文書
(label)は悪しきものでしたが、Pfizerではなく別の製薬会社、Wyeth PharmaceuticalsがAtivan
という商品名で製造しているベンゾジアゼピン系抗不安薬のlorazepamの添付文書を別の例と
してここで挙げておきます。

  アメリカにおけるAtivanの添付文書(label) - 2015年3月9日ダウンロード

  上記の日本語訳


 Ativanの添付文書の記載事項で注目すべき点は、「一般にベンゾジアゼピンは短期間のみ処方されるべきである(例えば2-4週間)。長期に渡る継続的な使用は推奨されない」、「Ativanの長期使用(4か月以上)の効果についてはシステマチックな臨床研究で評価されたことはない」、「抑うつのある患者では、自殺の可能性を念頭におく必要がある。そういった患者では、充分な抗うつ薬による治療なしにベンゾジアゼピンを使うべきではない」などですが、さらに「逆説的反応」についての説明もあります。

 ここで注目すべき大事なことは、長期使用(4ヵ月以上)の場合の薬の効果について、システマチックな臨床研究で評価されたことはないということは、長期使用(4ヵ月以上)からくる副作用についてもシステマチックな臨床研究で評価されたことはないということです。効果がないだけなら、患者にとって、無駄な治療に金と時間をかけた程度の被害で済みますが、副作用被害は命と健康に関わることであって、人生を狂わせられる不可逆的被害も多いのです。

 アメリカのAtivanの添付文書で、欺瞞的で気になる部分を以下に書き出してみます。

 まず「警告」の欄に書かれている以下の文言です。

 「lorazepamを含むベンゾジアゼピンを服用中に、前からある抑うつ症状が出現するか、悪化することがある。」
 (英語原文: Pre-existing depression may emerge or worsen during use of benzodiazepines
  including lorazepam.


 次に「副作用」の欄で「lorazepamを含むベンゾジアゼピンのその他の副作用には以下のものがある」として多数の副作用を羅列して書いてある中で、以下の言葉が目に留まります。
 「・・・抑うつ、抑うつの暴露(unmasking of depression)、・・・」

 ここのロジックを別のことばで言い表すといかのようになります。

 「ベンゾジアゼピンを服用した後に、抑うつが現れたとすれば、それは抑うつが服用前から存在していたが、マスクをかぶっていて判らなかったからだ。ベンゾジアゼピンを服用したために、そのマスクがはがれて、抑うつが表に現れたに過ぎない。」

 ベンゾジアゼピン服用の副作用として抑うつが現れたのではないということを言いたくてこんな文言を入れています。服用前に抑うつがあったかどうかは神のみぞ知ることであって、誰にも判りません。製薬会社のずるさ、したたかさがここに現れています。ここで例に挙げたAtivanの添付文書だけでなく、極めて多くの欧米のベンゾジアゼピン添付文書に同じ文言が見られます。ベンゾを服用後抑うつが現れても、それは服用前からもともと患者にあった抑うつだと言う訳です。薬を服用後何か異常な精神症状が現れたら、それは患者がもともと持っていた病気が悪化しただけだと精神科医が言うのと軌を一にしています。

 次の節、「死にたくなる薬」で引用するアメリカのハーバード大学医学部の精神科教授は、「(ベンゾジアゼピンが)抑うつの原因になっているのか、抑うつを単に予防できなかっただけなのかは不明である。」と言っていますが、同じような言い訳を言っています。ベンゾジアゼピンを服用前になかった症状が、服用後出てきたとすれば、それはベンゾジアゼピンの副作用であると考えるのが人間の理にかなっていると思います。製薬会社と精神科医は利益共同体であるのが判ります。
 同じベンゾジアゼピン系抗不安薬であっても会社が違うので、Xanax(一般名alprazolam)の場合とAtivan(一般名lorazepam)の場合では添付文書のニュアンスが若干違っていますね。 

 次に比較するために、抗不安薬ワイパックス(一般名lorazepam)の日本の添付文書と「くすりのしおり」を見てみましょう。ワイパックスは以前は武田薬品工業が販売していましたが、今はファイザー(株)に販売が移転したようです。

 日本のワイパックス添付文書  2015年6月27日ダウンロード
 「くすりのしおり ワイパックス」  2015年9月14日ダウンロード


世界最強のベンゾ - フルニトラゼパム(fulnitrazepam)

 ベンゾジアゼピン系睡眠薬に一般名フルニトラゼパム(fulnitrazepam)という薬があります。日本では中外製薬がロヒプノールという商品名で、エーザイがサイレースという商品名で販売しています。これ以外にジェネリック製品もあります。この薬を元々開発したのはホフマン・ラ・ロシュ(Hoffmann-La Roche)という名のスイスの製薬会社ですが、同社は今でもこの薬を生産し、中外製薬やエーザイに輸出販売しています。 国際麻薬統制委員会(International Narcotics Control Board -INCB)の分類では、他のベンゾジアゼピン系の薬はすべてScheduleIV(第4類)なのですが、フルニトラゼパムだけは危険度のより高いscheduleIII(第3類)に入れられています。

 エーザイが作成したサイレースのインタビュー・フォームには、「薬理作用はニトラゼパムに比べ約5倍強く」と記載されています。ニトラゼパムとは、村崎光邦がベンゾジアゼピンの奇異反応は0.2~0.7%と発現率は低いと書いた時に、その根拠に使った英語論文が取り上げた臨床研究で使われていたベンゾジアゼピン系睡眠薬のことです(真実6の検証)。アメリカのFDAはニトラゼパムをもはや現在承認していません。

 フルニトラゼパムは手術前の全身麻酔、局所麻酔における麻酔導入剤として、静脈注射用製剤も販売されています。。

 錠剤としては、フルニトラゼパムは日本では1mg錠と2mg錠が販売されており、日本の添付文書では用量は0.5mg~2mgとなっています。筆者の自殺した婚約者が残していったロヒプノールの内、1mg錠を一つ、彼女の自殺後のある晩、筆者は試しに飲んで見ましたが、飲んですぐに強烈な作用が現れ、フラフラになり、今にも倒れるのではないかと思い、慌てて床に着いた覚えがあります。医師も、製薬会社の研究員も自分でロヒプノールを飲んだ人は誰もいないでしょう。私の婚約者は自殺までの1年間、ロヒプノールを毎回4mg飲むように精神科医から処方されていました。その前の9年間はロヒプノールを2mgを処方されていました。合計で彼女は10年間ロヒプノールを服用していたことになります。さらに加えて自殺までの1年間はベゲタミンというこれも強力な睡眠薬も同時に処方されていました。それ以外にも抗精神病薬や他のベンゾ系抗不安薬も処方された薬の中に入っていました。完全に精神薬による殺人であったと私は確信しています。このサイトの最後の部分にある「私の医療裁判」を読んで見て下さい。

 ロヒプノール(一般名:フルニトラゼパム)はアメリカのFDAは初めから承認していない睡眠薬です。日本からアメリカに渡った日本の旅行者が、アメリカの税関でロヒプノールあるいはフルニトラゼパムを1mg以上所持していることが見つかれば薬は没収されます。いわゆる麻薬を所持していた場合と同じ扱いを受けます。

 アメリカ司法省の管轄下にDrug Enforcement Administration - DEA(麻薬取締局)という政府機関があります。数千人に及ぶ独自の捜査官を置いて、FBI(連邦捜査局)と同様の捜査権限を与えられています。アメリカの映画やテレビドラマ等で時々出て来るので知っている人も多いと思います。

 DEAはヘロイン、メタドン、モルヒネ、大麻(opium)、覚せい剤(amphetamines)、コカイン等と同じようにベンゾジアゼピンに対する、その中でも特にフルニトラゼパムについては一般名のフルニトラゼパムではなく、商品名のロヒプノールを名指しで出して、アメリカ国民の注意を喚起しています。

 ”Drugs of Abuse"  Drug Enforcement Administration, Department of Justice
 (「乱用ドラッグ」)  pdfファイルの該当するページのみ抽出 
 2015年3月14日、DEAのサイトよりダウンロード

 上記英文文献pdfファイル全84頁  2015年3月14日、DEAのサイトよりダウンロード

 アメリカ以外、イギリスもフルニトラゼパムを承認していません。従ってフルニトラゼパムの医薬品添付文書は日本と比較したくても、アメリカにもイギリスにも存在しません。

 フランスは世界でも早くからフルニトラゼパム(商品名Rohypnol)を承認した国ですが、2013年になって、ロヒプノールの販売元のホフマン・ラ・ロシュは自発的にロヒプノールのフランスに於ける販売を取りやめる決定を下しています。その販売中止の発表文の中で、ロシュは「この(販売)中止は健康の安全上の問題には関連ありません」(Cet arrêt n’est pas lié à des problèmes de sécurité sanitaire.)と述べていますが、それでは何故販売を中止するのか理由を何ら述べていません。透明性の欠如する極めて不可解な発表文です。ロヒプノールを今まで使ってきた服用者の離脱症状の問題については、それにどう対処すべきかの説明があります。

 従って、ロシュはフランスでは独自にロヒプノールを現在売っていませんが、代わりにドイツの小さな会社がロヒプノールをフランスで販売しています。その会社名はCHEPLAPHARM ですが、ロシュの子会社ではないようです。ロヒプノールというロシュの商品名で売っているので、ロシュとの間に何らかのライセンス契約を結んで販売していると思われます。

 CHEPLAPHARMが書いたロヒプノールの医薬品添付文書(2014年5月20日付)を読むことができます。

 フランスにおけるロヒプノール(Rohypnol)の医薬品添付文書(Résumé des Charactéristiques  du Produit)ー フランス語原文   2015年9月15日、フランスANSMサイトよりダウンロード

 上記の日本語訳

 ANSM - Agence nationale de sécurité du médicament et des produits de santé(国立医薬品・医療用品安全管理機構)のホームページにアクセスして、Rohypnolで検索するとANSMがRohypnolについて今まで発表した文書が閲覧できます。

 検索結果を表すページをダウンロードしたものがこれです。(2015年9月15日ダウンロード)

 以下はダウンロード元のURLです。
 http://ansm.sante.fr/searchengine/detail/(cis)/60329185

 ANSMがどんな組織であるかを日本語で説明したのものがネット上にあります。


 次にドイツのフルニトラゼパム(商品名Rohypnol)の医薬品添付文書を以下に読んで見ます。
ドイツでもフランスと同様に、CHEPLAPHARMがロヒプノールを販売しています。この会社が書いたドイツでのロヒプノールの添付文書は以下の通りです。

 ドイツにおけるロヒプノール(Rohypnol)の医薬品添付文書(Gebrauchsinformation: Information  für Anwender - 利用情報:使用者のための情報)) 
 ドイツ語原文  2015年3月21日ダウンロード

 上記の日本語訳

 フランスの添付文書とドイツの添付文書は同じCHEPLAPHARMという会社が書いたものでありながら若干の違いがあります。しかし両者とも、欧州医薬品庁(European Medicines Agency -EMA)のベンゾジアゼピン添付文書のガイドラインを満たしています。ベンゾを睡眠薬として使う場合は2~4週間が限度であると明確に書いてあります。

 次に日本の中外製薬が書いた、ロヒプノールの添付文書を以下に見てみます。

 日本におけるロヒプノールの医薬品添付文書
 医薬品医療機器総合機構(PMDA)のサイトよりダウンロード 2015年3月21日 

 フランス、ドイツのロヒプノールの添付文書と日本のロヒプノールの添付文書の大事な違いに着目して見ましょう。

 まずフランスとドイツでは1mgがロヒプノールの1日の服用量の上限です。これに対して日本では2mgまでとなっています。それに合わせて、フランスとドイツでは1mg錠しか販売されていませんが、日本では1mg錠に加えて2mg錠まで販売されています。

 フランスの添付文書にはロヒプノールの服用期間は最長2週間までと明確に書いてあります。ドイツの添付文書では服用期間は2週間まで、徐々に減薬する場合、減薬期間を入れても、4週間までと明確に書いてあります。EMA(European Medicines Agency)のガイドラインに合致しています。日本の添付文書には服用期間についての言及は何もなく、これではロヒプノールを無制限にいつまでも飲み続けていいことになってしまいます。

 フランスとドイツの添付文書にはいずれも逆説的反応についての説明や警告が書かれています。日本の添付文書には逆説的反応という言葉をつかっての説明はなく、それに該当するとすれば、(1)重大な副作用の2)として「刺激興奮、錯乱:統合失調症等の精神障害者に投与すると逆にこのような症状があらわれることがある」と述べているにすぎません。これでは統合失調症の患者でなければ刺激興奮、錯乱はないとこれを読んだ人は受け取るでしょう。そんな証拠は何もありません。ヨーロッパのベンゾジアゼピンの添付文書で、逆説的反応が現れるのは、専ら統合失調症等の精神障害者であるなどと服用者を限定しているものはありません。

 中外製薬の添付文書に書いてあった問い合わせ先の電話番号に、ある時私は電話してみました。ロヒプノールの副作用について、添付文書に書いてあること以外に何か知っていたら教えて欲しいと依頼しました。電話に出た担当者は、私が医師か薬剤師であるかとまず初めに聞いてきました。私がどちらでもないと答えると、それではそういったことは医師に聞いて欲しいと言って、それ以上の話をすることを相手は拒否しました。電話を切る前に、その担当者の名前を教えて欲しいと言ったところ、社内の規則で問い合わせして来た人に自分の名前は言ってはいけないことになっているということでした。

 例えばコンピューターを買って、どこか不具合があった場合には、コンピュータ・メーカーのサポート・デスクに電話すれば、できる範囲でいろいろな事を教えてくれます。ところが薬の場合にはそうはいかないのです。薬の服用者が薬のユーザーであって、薬を飲んだらどうなったか、一番よく知っているのはユーザーですが、ユーザーの疑問に製薬会社は何も直接答えないのです。そういったことは医師に聞いてくれという一辺倒の反応しかないのです。医師に言ったところで、医師には服用者の訴えは何も判りません(真実2)。医師に言ったところで、医師に嫌われるだけで、そんな副作用はない、あるいは滅多にないと言ってまともに相手にしてくれないのです。かくして市販後副作用情報はどこかに埋もれてしまって、表面化せず、悲劇がいつまでも続くのです。

 ホフマン・ラ・ロシュという国際的製薬会社はベンゾジアゼピンを世界で初めて開発し、今でも世界中でベンゾジアゼピンを販売しています。全く科学的には同じ物質を、世界中の同じ人類を相手に売っているのです。国によって添付文書に書かれた内容を、これ程までに変える理由は何でしょうか。製薬会社は言葉の壁をうまく利用しているのです。ある国である薬の有害な副作用が発覚しても、言葉の壁があるが故に、他の国にはその情報が流れて行きません。ある国で、ある薬の売上が落ちても、他の国では相変わらず今までと同じようにその薬を売り続けられるからです。グローバリゼーションが進んでいると言われる現代、インターネットが発達して情報が瞬時に世界中に流れる時代にあって、こんなずるい商売を何時までも続けることは許されません。

 日本ではフランスやドイツと比べて内容が極めて不十分な添付文書さえ、服用者、消費者には簡単には提供されていません。服用者が渡されるのは「くすりのしおり」だけです。ロヒプノールのくすりのしおりを参考までに見てみましょう。

  「くすりのしおり ロヒプノール」 2015年6月22日ダウンロード

  元のサイト
  http://www.rad-ar.or.jp/siori/kekka.cgi?n=1201

 製薬会社のネット上のホーム・ページでも添付文書を見たいと思ったら「医療従事者の皆さま」の欄をクリックしないと見られません。「患者さん・一般の皆さま」の欄には添付文書は掲載されていないのです。どこの製薬会社でも同じです。

 製薬会社のホーム・ページの例: 中外製薬
 http://www.chugai-pharm.co.jp/index.html

 患者や服用者にはできるだけ副作用のことを知らせないほうがいいという発想が裏にはあります。副作用のことを知ったら、多くの人は薬を怖がって飲んでくれなくなるだろう。その分、製薬会社の売り上げが減るだろうという読みです。「民は知らしむべからず、よらしむべし」という昔の封建制度下にあった思想が未だに根底にはあるのではないでしょうか。インフォームド・コンセントなどと綺麗ごとをメディアでは取り上げて囃し立てていますが、日本では基礎からして出来ていないのです。

 因みに、上記で紹介した国連の国際麻薬統制委員会(International Narcotics Control Board -INCB)の統計数字によれば、フルニトラゼパムの2015年2月1日現在の、年間推定必要量(使用量)は日本700,000グラム、フランス50,000グラム、ドイツ30,000グラムとなっています。

 「ベンゾジアゼピン年間推定必要量の日本と欧米主要国との比較」


日本の精神科病院では抗不安薬・睡眠薬のなかでフルニトラゼパムの処方率はナンバーワン

 厚生労働科学特別研究事業として厚労省から平成22年度の補助金を受けて行われたある調査の報告書が発表されています。調査は「向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究」と題がついていますが、実際は(1)抗うつ薬、(2)抗不安薬・睡眠薬のみが調査対象になっており(抗精神病薬は除外されている)、海外との比較も極限られた一部の海外の文献を参考にしているだけで、極めて不十分な内容しか盛り込まれていない報告書です。調査したのは抗不安薬・睡眠薬の場合はわずか3つの私立精神科病院のみであり、しかもそれら病院は「適正な薬物療法に関心を持つ医療機関」とされている。しかもこれら3つの私立精神科病院の名前は一切明らかにされていない。こんな調査ではとても日本の向精神薬の処方実態の全貌を知ることはできない。いいとこ取りをしているに過ぎず、日本の本当の真実は表に現れてこないでしょう。真実が表に出て来るのを恐れているように思えます。いずれにせよ、これは極めて不十分な調査なのですが、その適正な処方を心がけているという3つの私立精神科病院では、フルニトラゼパムの処方率は26.3%と抗不安薬・睡眠薬の中で最も高いものになっているとのことです。日本の精神科病院全体のフルニトラゼパムの処方率が若し判るとすれば26.3%を大きく上まっていることが予想されます。

フルニトラゼパムによる逆説的反応は珍しいものではない

 フルニトラゼパムによる逆説的反応はけっして珍しいものではなく、かなり頻繁に起こっていると思われます。真実6の検証の章で既に紹介した、臨床精神薬理2008年2月号に載った「奇異反応と統合失調症の精神症状との鑑別に難渋した1例」と題する論文で語られている症例はフルニトラゼパム4mgが絡むものでした。

 ここではフルニトラゼパムが絡んでいると思われる逆説的反応の具体的症例について記した2件の文献を以下に紹介します。

 精神医学 1994年Vol.36,No.2
  「Flunitrazepam投与による健忘と異常行動」 杉浦麗子他


 精神科診療の副作用・問題点・注意点」 八木剛平編著 診療新社 1998年1月10日 
 「長時間作用型ベンゾジアゼピン系睡眠薬による奇異反応」 242~250頁 執筆 杉浦麗子

 上記の2つの文献に載っている症例はすべて入院患者の例です。入院患者であるために、病院スタッフが近くで観察していたので、患者の異常な行動と薬との関係に気が付いたのです。若しこれが入院患者ではなく、外来患者や通院患者であったならば、医師はそういった異常行動があったことも気が付かず、また家族から異常行動があったとの報告を受けても、それは統合失調症等の精神疾患が悪化したためであると単純に誤った結論を導き出すのです。自分の投与した薬がそういった有害反応を惹き起こしたことを認めたくないのです。逆説的反応は統合失調症等の精神疾患がなくても、誰にでも起こり得る反応であることを追加指摘しておきます。

スイスの自殺データに関するある論文


 自殺前に自殺者がどんな薬を飲んでいたかを調べた研究は世界でも皆無に近いと言えます。製薬会社も医師も、そんな事をすると真実が世間に暴露されてしまうので、調べて欲しくないと思っていて、その思惑に従って世界が動いているようです。

 自殺と自殺前の服用薬(ジェネリック名まで掘り下げた)とを調べた研究論文が一つ見つかりました。スイスの首都ベルン地域に於ける1989年3月-1990年2月の1年間の服薬自殺既遂者・未遂者に関するデータがこの論文で提示されています。服薬自殺既遂・未遂者(いわゆるOD - オーバードーズ)だけが調査対象です。国情によって違いがありますが、ODだけが自殺の手段というわけではありません。縊死(首つり)、飛び降り、飛び込みその他各種の手段があります。従ってこの論文だけでは極めて限られた自殺の情報しか集まらないのですが、それでも、他にデータがない中で、興味あるデータが含まれています。ベンゾジアゼピンの生みの親であるロシュ(Hoffman-La Roche)という大手製薬会社はスイス籍の会社です。

 "A comparison of the drugs taken in fatal and nonfatal self-poisonong"
  ACTA PSYCHIATRICA SCANDINAVICA 1994; 90; 184-189

日本のある病院に於ける過量服用のデータ

 日本救急医学界雑誌 2008年 Vol.19 No.9に載った「精神科病床を持たない二次救急医療施設の救急外来における向精神薬過量服用患者の臨床的検討」と題する論文を見てみます。

尚、元の論文は以下のURLでも閲覧できます。
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjaam/19/9/19_9_901/_pdf

 このpdfファイルは注釈が書き込めないようになっているので、該当部分をハイライト表示できません。そこで903頁の最後の部分にある、その該当部分を以下に抽出して書き出します。神戸市立医療センター西市民病院(旧・神戸市立西市民病院)に於いて、2004年1月からの3年間に内科救急外来を受診した過量服薬患者194名(内、救急車による搬送167件)、合計件数273件を調べて見ると以下のことがわかったと書いてあります。

「5)服用薬物の種類と服用量
 服用した薬剤の種類としてはベンゾジアゼピンが 212 77.7%で用いられてお り頻度としては最も高Fig. 3そのなかでもフルニトラゼパムが 77(28.2% と最も多く用いられていた。」

 これはある1病院の3年間のデータに基づくものであって、母数が少ないですが、この病院が特殊な病院であるとは考えられません。服用期間に制限を定めず、あれだけ大量にベンゾジアゼピンが日本で使われていることを考えると、この病院で起こったことは、日本中のあらゆる病院で多かれ少なかれ起こっていると推定できます。

 ここに挙げられた例は向精神薬の過量服用(オーバードーズ -OD)による自殺企図の例であったので服用した薬物の種類を病院が調べたので薬の名前が判ったのですが、OD以外の手段による自殺未遂や既遂例については、自殺未遂・既遂時にどんな薬を飲んでいたかの調査がまるでありません。誰もそれを調査していないのです。しかし仮にそれをきちんと調査して把握していたのなら、OD以外の自殺手段の場合にも、特に日本では、自殺時に服用していた薬はベンゾジアゼピンが圧倒的に多いと推定できます。それはベンゾジアゼピンは死にたくなる薬だからです。

 以上の説明で判るようにベンゾジアゼピンについて日本の厚生労働省は大変な失策を犯しているのです。厚労省は既に年金問題にからむ大失策で国民を驚かせましたが、薬は国民の生命と健康がからむ問題です。ベンゾジアゼピンや精神薬についての厚労省の失策は国民の気が付かないところで起こっていました。既にどれだけの命が奪われ、どれだけの人生が破壊されたことでしょうか



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